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住まいは人権 ひとり親家庭の住居の貧困に対する取り組み

2019年2月22日 愛知県名古屋市にて第二回母子世帯居住支援の全国大会が開催された。
全国からシェアハウス運営事業者、NPO法人、関係者が集まりプレゼンテーション、意見交換が行われ、国交省担当者、愛知県大村知事や多くの議員に報道陣が駆け付けた。

今まで大事(おおごと)にされなかったひとり親家庭の居住問題。この問題に社会が目を向け始めたその瞬間を目の当たりにした。会議レポートをお届けする。(取材・文:浦邊真理子)

(撮影:会場エントランスにて)

 

シングルマザーの住まいは低い収入、正規社員でないという「社会的立場」の貧困から住居が見つからないケースが多い。住居が見つからないと保育園を見つけられず、手当も受けられない。子供の預け先がないと仕事が決まらない。

安定的で社会的に自立した職業に就いていた場合の離婚、住まいが確保された離婚でない場合、このような仕組みで八方塞がっているのが現状だ。

住まいの貧困は自立を憚り、DV(ドメスティックバイオレンス 以下DV)から抜け出せず、子どもにも被害が及ぶ原因にも繋がっている。

離婚前や直後、仕事や収入がない、敷金礼金の費用もない、保証人もいない、そんなプレシングルマザーやひとり親家庭でも入居できる専用シェアハウスは全国で広がりつつある。しかしながら、認知度不足や採算性、入居者問題など課題は山積である。

今回、愛知県名古屋市で行われた 「第二回母子世帯居住支援の全国大会」ではシングルマザー専用のシェアハウスを運営する事業者を中心に、シングルマザーを支える様々な人が集まり情報交換、連携、今後の取り組みについて熱い議論が行われた。

 

全国に35箇所しかない母子シェアハウスとたった一つのサイト

 

TV番組の影響でシェアハウスが流行りだし間もなくして、7年間に東京にて初めてシングルマザー専用のシェアハウスが誕生した。収益性や、社会貢献度を見込んで取り組む事業者も少なくはなかった。さまざまな問題を抱えたシングルマザーと子どもの共同生活は想像を絶し、容易いものではない。通常のシェアハウス運営とは全く異なっている。

運営がうまくいかず、閉鎖されるハウスも少なくなかった。現在全国で確認されるシングルマザー専用のシェアハウスは35件である。(うち関東圏20件、関西圏3件 2019年2月現在)

シングルマザー専用シェアハウスの先導者にして、唯一のシングルマザー専用住居情報サイト「マザーポート」https://motherport.net/を運営する一級建築士事務所秋山立花代表の秋山氏が発起人となり、昨年2018年に初めての全国会議が開催された。

(画像:一級建築士事務所秋山立花代表 秋山怜史氏 提供:株式会社めぐみ不動産コンサルティング)

 

事業者(もしくは個人)がシングルマザーへの需要を考え、シェアハウスを始めるものの、勃発する問題、山盛りの課題、運営がスムーズに問題なく進むことは無いに等しい。そのうえ、シングルマザー専用シェアハウスは前例が少なく、各運営者は専門家ではないので、心身のケアに対する専門知識はない。何処に相談してよいのかも分からず、問題を一人で抱えこみ、撤退する者もいた。

この会議では 熱い思いをもった事業者同士が手を組んで連携し、問題を共有して発展を目指そうというものである。

 

シェアハウス事業者たちの切実な意見交換

 

会議では、事業者による意見交換が行われた。離婚家庭で傷ついた子どもへのケアに対する相談もあった。

ひとり親家庭のシェアハウス事業者は、一般的な不動産会社での仲介のようにドライな付き合いではない場合が多い。

1対1の「人」として向き合い、時に「お母さん」であり、「コンサルタント」であり、「仲間」であり、「頼れる人」であり、「支援者」であり、さまざまな役目が要求される。ひとり親家庭を救いたい、子ども達に温かい環境で育ってほしい、お母さんが頑張れる環境を提供したい、応援したいとシェアハウスを運営していても事業者も一人間であり、全てを受け止められる訳ではない。

シェアハウス運営者同志にしかわからない悩みなども意見交換された。事業者からだけでなく、NPO法人で長くDV被害者のケアに当たられてきた専門家経によるアドヴァイスなども盛んに議論され、事業者だけで抱えずに、ソーシャルワーカーと連携した取り組みが紹介された。

様々なバックグラウンドや悲惨な経験をした入居者対策、収入面をカバーする為に夜職や風俗業に走りやすい入居者の対応、自立ではなく支援に頼って生きていこうとする入居者問題など課題は多い。

 

(育・職・住)そろった環境と「コミュニティ」「自立支援」が新しいシェアハウスの主流

 

昨年開催された第一回会議で、改めてシングルマザーのシェアハウスには「住まい」だけでなく「育児」「仕事」の3点セットでないと機能しないことが実体験をもとに確認された。
今回の事業者によるシェアハウスの紹介プレゼンテーションでも、3点を兼ね備えたハウスが多くみられ、備えていない「住まいだけのシェアハウス」の場合は「ただの箱」であるとさえ思わされた。

さらに、その3点セットだけでは完全とは言えず、ほかにも多方面からの支援が必要とされることが分かる。親子とも「コミュニティ」と、シェアハウスを”卒業“するための支援が必要であり、様々な工夫やプログラムの導入で「自立支援」を積極的に取り入れ、精神的にも金銭的にも本当の自立を目指すことが次の流れになっているようである。

 

誰も目に留めなかった問題に18年前から取り組んできた研究者の存在

まだ特化型シェアハウスもない18年前から、母子家庭の居住問題を研究してきた日本学術振興会特別研究員の葛西リサさん(葛西リサさんについては、「シングルマザーの住まい 現実とこれから」をご覧ください。)という女性がいる。様々な事例を調査し、全国の事業者をまとめる役割を果たした立役者である。

「住まいは人権」とスローガンの下、あらゆる住まいに付随するひとり親家庭の貧困問題を提起している。社会的に全く理解されず、差別の大きな問題にひとりで取り組まれてきたのは、ゴールの見えない霧の中を歩くような困難な道のりであったことは想像に難しくない。18年間も研究を続けられた集大成として、このような全国会議が開催された。

社会が追いついてきたとも言えよう。3組に一組が離婚といわれる時代において、母子の貧困、虐待事件がニュースを賑わす中、シングルマザーの諸問題は無視できなくなってきた。政治だけでなく、問題解決にむけて関係各所の取り組みは急加速をし、社会の目も変化してきている。

このような研究者がいたからこそ、今日の社会的認知につながったと尊敬の念を抱かずにはいられない。現在もシェアハウスだけでなく、シェアハウスを出た後の居住を見据え、母子の居住問題全体を対象に研究を続けている。


(画像:愛知県大村知事を囲んで 参加事業者)

 

初の全国組織「全国ひとり親居住支援機構」の発足

 

今回の会議で、事業者らでつくる初の全国組織「母子居住支援機構」の発足が発表された。

事業者だけが連携して頑張るのではなく、組織として国や行政にも支援を働きかけていくという。事業者と行政、NPOなどが連携して多様なケアをセットで提供することが母子居住問題の貧困解消に必要とされている。会議に出席された大村秀章・愛知県知事は「できることから着実に進めたい」と述べた。

ひとり親家庭の住居の貧困は子どもの発育、心身状態、学力問題、不登校、進学率の低さ、虐待すべてに影響している。つくづく「住まいは人権」なのだと、子どもの権利を守りたいと考えさせられた。ひとり親家庭の住まいの貧困が解消することで、子どもの未来は必ず変わっていく。変えていこう。