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NPO法人くにたち夢ファーム Jikka 助けを求めてきた女性すべてに手を差し伸べる

「どこの家庭も一つ間違えると犯罪の温床となる可能性がある、どんな女性でも被害に遭う可能性がある」と語るのは、NPO法人くにたち夢ファーム Jikka代表の遠藤良子さん。遠藤さんは、ドメスティック・バイオレンスを受けていたり、生活に困窮していたりする女性たちの気持ちに寄り添った支援活動を行っています。遠藤さんに、生活困窮女性の実態や支援のあるべき姿、くにたち夢ファームの活動内容などをおうかがいしました。(取材・文/編集部)


【遠藤 良子(えんどう よしこ)さん NPO法人くにたち夢ファーム Jikka代表
相談員として多くの生活困窮女性の支援を行ってきた経験を生かし、「NPO法人くにたち夢ファーム」を設立。自身もシングルマザーの経験があることから、一人で苦しむ女性たちの気持ちに寄り添って支援活動を続けている。くにたち夢ファーム Jikka http://kufjikka.sakura.ne.jp/wp/

 

逃げた後の生活再建支援が重要

 

―「くにたち夢ファーム」は、どのような活動を行っているのですか。

遠藤さん ドメスティック・バイオレンス(以下、DV)や貧困など、さまざまな困難を抱える女性や子どもたちに寄り添い、相談を受けたり支援をしたりしています。相談に来られたなかで大きな問題として挙げられるのが、やはりDVを受けている女性です。こちらでアパートを何室か借り上げていますので、助けを求めてきた女性が暮らせるようにもしています。

―そういった点では、公的機関による支援もあります。違いはありますか。

遠藤さん 身体的な暴力を受けている女性であれば、たしかに公的機関にも受け入れの機能があります。しかし、一口に暴力といっても身体的なものだけではありません。経済的な暴力、精神的な暴力、性的な暴力、子どもを利用した暴力などさまざまです。こういった見えにくい暴力は、身体的暴力を受けたときのように被害を証明することが難しいのです。暴力を受けている証拠が出せないため、公的機関に助けてもらうことすら難しいこともあります。つまり、助けてもらいたくても社会資源がない。そういった女性も私たちは支援しています。しかし、たとえ公的機関に助けられて夫から逃げられたとしても、問題はその先にもあるんです。

―どういうことでしょうか。

遠藤さん そもそも、暴力をふるった加害者側が処罰を受けたり拘束されたりするのではなく、暴力を受けた側が逃げおおせなければならないということ自体にも問題があると私は考えています。そうはいっても、現状では逃げなければなりません。では、逃げられたからそれで解決するかというと、そうではありません。逃げた先での生活再建が難しいのです。

―どういった問題が起きるのでしょうか。

遠藤さん たとえば、資格やスキルを持っている女性であれば、新しい場所に行っても比較的早く自立することができます。しかし、専業主婦でDVを受けていたような場合、夫から束縛され、仕事はさせてもらえない、友達も作れない、といった状況に置かれていた女性も多くいます。すると、新しい場所へ逃げても、就職や人とのコミュニケーションなどがうまくいかず、生活再建が非常に厳しい状態になります。生活保護を受けられたとしてもおカネさえあれば生きていけるというわけではないのです。

―やはり、仕事を見つけるのは難しいのでしょうか。

遠藤さん どんな仕事だってあるじゃないかと思われる方も多いかもしれませんが、社会的拘束を受けていた女性が働くのはとても難しいことなんです。DVを受けていれば、人とコミュニケーションをとることすら怖くなっていることもあります。人と話せない、ちょっと大きな声を出されるとドキッとするというケースもあります。仕事を見つけても、職場で少し注意されただけで「自分がダメなんだ」とすぐに自信を失ってしまう。とにかくメンタルが弱っているので、些細なことでダメージを受けてしまいます。ですから、公的機関で助けられたとしても、“逃がす”だけの法律では不備だといえるのです。

 

人の気配がある居心地のいい場所が必要

 

―“心”の問題が解決されていないということですね。

遠藤さん そうですね。そもそも、DVを受けている女性は、相談するために電話をかけてくることはできても、逃げ出すことができない人が多くいます。「いますぐ家を出て国立駅まで来れば、なんとでもするから来なさい」と私たちが言ってもなかなか出て来られません。そんな簡単な話ではないんです。私は今も相談員をしていますが、相談に来てから行動を起こすまでに7年くらいかかるケースもありました。

―そういったお話を聞くと、たしかに行政では対応しきれていない問題が多そうですね。

遠藤さん また、シェルターやステップハウスや母子生活支援施設などいろいろな施設がありますが、1年、2年や4年といった入居期限が設けられているところがほとんどです。期限を決めることで自立できる方もいますが、DVを受けていたような場合は、たった数年で自立できるまでに回復するのはとても難しいと思っています。ですから、くにたち夢ファームで借り上げているアパートでは、退出の期限を設けていません。半分冗談ですが「死ぬまでいてもいいわよ」と言っています。

―そういった方々には、どういった対応が必要になるのでしょうか。

遠藤さん 通常私たちは、人間関係で嫌な思いをしたとき、家族や友人に愚痴をこぼすことができます。「あなたは悪くない。大丈夫よ」「世の中には色んな人がいるんだから気にしない方がいいわよ」などと声をかけられることで少しは落ち着きます。しかし、支援が必要な女性たちは、そういったコミュニケーションをとれる人がいません。くにたち夢ファームには、いつでもスタッフがいるオープンスペース「jikka」があります。名称の通り、居間のような雰囲気でのんびりいられる場所です。本人が少し話したいなと思えば顔を出せばいいし、ひとりになりたければアパートにいてもいい。なんとなく人の気配がある、そんな雰囲気を用意しておくことが重要だと考えています。


【居間のような雰囲気のコミュニティスペース「jikka」】

 

福祉は地域とともに作られるべき

 

―そのオープンスペース「jikka」では、さまざまなイベントを開催しているそうですね。

遠藤さん 月曜日から金曜日は「コミュニティ・カフェ」として、ドリップコーヒーやお茶を100円から提供しています。水曜日は「折り紙の日」。木曜日は「手仕事の日」でミシンを使って、モノ作りをしています。第2土曜日の午後は「ジェンダー・カフェ」。お茶を飲みながら、ジェンダー問題についてワイワイ語り合っています。また、学校の春休みや夏休み、冬休みには、「子ども朝ごはん」を開催しています。そのほかにもいくつかイベントを行っていますが、特別派手なことをやっているわけではありません。地域にも開かれた場所として、誰もが気楽に立ち寄れるようにしています。

―困窮した女性を支援するというだけでなく、地域とともに生活していくということですね。

遠藤さん そうですね。過去、障がい者施設や養護施設などの福祉施設は、地域から離れた場所に建設されることが多くありました。しかし、それは間違っていると私は考えています。そうではなく、もっとオープンにしていろいろな人がいることを理解し合える地域を作っていかなくてはならないのではないでしょうか。

―くにたち夢ファームは、国立市とも協同事業を行っていますが、今後はどのような位置づけになっていくのでしょうか。

遠藤さん 現状の行政のように、支援が必要な女性に施設に入ってもらって、ある意味集団生活を経験してもらうということも必要かもしれません。しかし、本当はその人自身がどうやって暮らしていきたいかを基本にした支援の在り方が必要です。これから、行政がそのような支援を展開していけるよう、その参考になるモデルケースを私たちが作っていけたらいいなと思っています。


【「『助けて』と言うことを恥ずかしいことだと思わないでください」と遠藤さん。自分で悩みを抱えずに遠慮なく助けを求めて欲しい】

 

―最後に、一人で悩みを抱えている女性たちにメッセージをお願いします。

遠藤さん 「助けて」と言うことを恥ずかしいことだと思わないでください。「自分さえ我慢すればこんなことにならなかったのに」「自分が悪いんじゃないか」と考えるのではなく、「これからどうすればいいのか」を考えてください。そして、自分でどうにもできなければ「人に助けを求める」こと。必ず助けてくれる人はいます。ただし、自分から「助けて」と言わなければなりません。私は、電話をかけてくる相談者にいつもこう言っています。「あなたが手を伸ばしてくれないと、その手が見えないと、私はその手を引っ張れない。『助けて』と言って手を伸ばせば、私はその手をつかめるから」。いつでもいいから手を伸ばせるときに、しっかり手を伸ばして助けを求めてください。