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シングルマザーの住まい 現実とこれから

誰も明らかにしてこなかった母子世帯の居住の実態。このテーマを18年前から研究し、「母子世帯の居住貧困」(2017年 日本経済評論社)と題した書籍で研究の集大成を明らかにした女性がいる。立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科所属 RPD(日本学術振興会特別研究員)研究員 葛西リサ氏にシングルマザーを取り巻く住環境の実態とこれからについて伺った。(取材・文/浦邊真理子)

 

今までは「実家に帰るか賃貸か」

 

―研究を始められたきっかけを教えてください。

葛西さん 大学で住宅問題について学んでいたのですが、教授が欧米より持ち帰った研究論文の中に、女性の住宅問題に特化した学術論文がありました。欧米でも女性の住環境というのは構造的であり、男性が稼いで住まいを準備し、女性は妻という立場になって住まいを確保する。その立場は婚姻が破綻すると崩壊、婚姻できない場合には豊かな住環境は確保できない場合が多い。男性に付随する女性の厳しい住宅問題が体系的に書いてありました。

 

その当時はシングルマザーの問題について、福祉的視点からでさえも今ほど取り上げられておらず、誰も研究していませんでした。何も知らない状態で飛び込み、修士論文に取り組んだことがスタートです。

 

―18年も経つと社会的に大きな変化が見られるのではないですか。

葛西さん 大きく変わりました。特に近年では市場が寄ってくる感覚さえ覚えます。数年前までは、例えば不動産業者が研究者である私に「シングルマザーに家は貸さない」と言い切っていました。シングルマザーの中でもDV被害者などは加害者が訪れて来る可能性もあり、他の入居者に迷惑がかかるので嫌がられていたのです。

 

シングルマザーにも様々なタイプ、階層性がありますが、特にトラブルになる人を排除する傾向でした。しかしここ数年で、「客付して欲しい」「シングルマザーの団体を紹介して欲しい」というところが増えてきています。それほど市場が変わってきているということです。

 

政府が新たなセーフティネット法の施行等で、空き家を住宅確保要配慮者のために利用していくと急転換したことも大きく関係しています。社会の方向が急転回したように思います。

 

―実際、シングルマザーの方はどのような住居を選択しているのでしょうか。

葛西さん 現状では、実家に戻られる方、民間賃貸を借りている方が圧倒的に多いです。

 

―公営住居への入居はどうですか。

葛西さん とても少ないです。知らない方も多いのですが、公営住宅は倍率が高いうえに、条件も厳しいのです。まず、公営住宅にはたいてい離婚後でないと応募できません。また所得制限、応募する団地の区域に住民票があるか、その地域に何年住んでいるか(各自治体によって長さは異なる)2、3年住んでいないと応募資格がないという自治体もあります。一年間のうち決められた期間でないと申し込みできない上、優先入居制度を設けている自治体もありますが、高い倍率の中の抽選、当選したとしても申し込みから入居まで数カ月を要するので、離婚してすぐ住める住宅ではありません。4、5年待って入居されたという話が多いですね。

 

離婚を決め、新生活を準備する場合も、DVなどから逃げて来たような場合も、残念ながら、公営住宅の選択肢はないのが現状です。

 

―そうなのですね。母子生活支援施設(母子寮)はどうですか。

葛西さん 選択肢としてはありますが、DV被害の方、病気等で働けないなどの事情のある方が優先して入居しています。単に住宅に困っているだけでは、優先順位は低く、施設ルール(門限など)もあり、長期での入居も難しいので、ニーズは減っています。

 

結婚時にパートやアルバイトだと、就労不安定と見なされ賃貸住宅が借りられず、施設を希望しても、DV等の緊急性がないとそこへ入居できず、仕方なくシェアハウスに来たという方もいました。

 

―シェルターというのはどのような住居になのでしょうか。

葛西さん シェルターは現在ではDV被害などの一時緊急避難場所です。民間の団体が運営しているものもありますが、母子生活支援施設に併設されている場合もあります。やはり行政も緊急性の高い、命の危険があるDV被害者、一番困っている人のための避難場所にしたいという意図があるようです。子どもの年齢制限などもあり、長く暮らす為の施設ではありません。制度としては、多くの人は利用できるものがないというのが現状です。

 

一緒に泣くことしかできない、理不尽で悲惨な住環境

 

―シングルマザーは非正規社員が多く、貧困、低収入が現実としてあるなか、賃貸住宅を借りることは困難です。実際どのような暮らしをされているのでしょうか。

葛西さん 施設に入れなかったうえに、賃貸住居を借りて生活することができず、DV加害者の元に戻られたケース。安さを重視して選ばれた結果、日当たりも悪く、埃や衛生面、住環境が悪すぎて子どものアレルギーが悪化し、借金をして引っ越しを余儀無くされたケース。高学年の子ども二人とワンルームに暮らす事例、引っ越しのためのまとまったお金が用意できず、子供が中学生になっても勉強スペースもなく、積み重なった物の上で宿題を済ましている現場。DVから子供を連れて命からがら逃げてきたのに、新生活がうまく行かず、子供が小学校の友達に会いたいし、「父親の元に帰る」と親子引き裂かれた話、DVからは逃げられたのに、その先にはもっと辛い現実がある。住宅問題に絡む、悲惨な話は多々あります。

シェアハウスという新しい選択肢の誕生

 

―シングルマザーのシェアハウスはいかがですか。

葛西さん 住宅に関して選択肢がない中、ここ数年でシングルマザーのシェアハウスという画期的な仕組みが広がってきました。統計的に見ても、小さいお子さんを抱えて離婚する人が圧倒的に多いのですが、子どもを安全に預けられて、居住者同士の助け合いがあり、働く場所を探して、生活の基盤を作ることができるシェアハウスは、シングルマザーにとって救いがあり、とても良い仕組みだと考えています。

 

新生活を始めるにあたり、引っ越し費用に、敷金礼金、電化製品や様々な生活用品を一から揃えることは大変な出費です。シェアハウスだと費用を抑えられ、保証人がいない場合でも入居できる物件も多く、住人同士のコミュニティが支えとなる場合があります。公営住宅に入居できるまで、シェアハウスで待つというケースもありました。

 

―シングルマザーのためのシェアハウスも法人、個人経営ともに随分増えましたね。

葛西さん 新生活を始める時期にはメリットが多いと思います。しかし、プライベートスペースは1室しかないので子供が複数、または大きくなってくると住まいとしては厳しい。他家族と共同生活をするのでプライバシーが確保しにくいことや、人間関係のもめごとなど、「仮住まい」の要素はぬぐい切れません。やはり、水回りを共有など、一般の住宅ではないので長く住むには限界があります。水回り(お風呂トイレ)が個別にある物件は入居期間も長い傾向がありますが、共同使用のシェアハウスは短期間で出られる場合が多いですね。

 

賃貸住居を借りることが難しい人や母子のみでの生活に不安を抱える人が、生活の基盤を作るための住まいという位置づけなのかなと思います。子どもの進学等、節目節目のタイミングで退去される方が多いです。退去でせっかく作ったコミュニティを失う場合もあるので、別の方法でそれを作る、あるいは維持する必要性があるのではないかと考えています。

 

―シェアハウスを出た後はどうされるのでしょうか。

葛西さん 再婚、賃貸に移動される方、様々ですが、都心部の場合は生活費、特に住居費が高すぎてやっていけず実家に戻られるケースも少なくありません。本当は、子どもの学校や友達がいる慣れた土地で独立して生活をしたいけど、それが叶わないというケースもたくさんありますね。

都内にある不動産会社が運営するシェアハウスでは、退去希望者に地域の住居を紹介し、同じ地域の賃貸住宅で暮らす提案をしているところもあります。人間関係、親子ともコミュニティの存続が可能で、素晴らしい取り組みだと思います。

有志による「育・職・住」を備えた新生複合施設の誕生

 

―目先の金銭的利益でなく、高い志や奉仕精神を持った方の活動とは素晴らしいですね。

葛西さん 現在では、そのような有志の方による住環境の変化の兆しが見られます。千葉県南流山の、「MOM-HOUSE」というシェアハウスでは、シングルマザーが働くことができる就労の場WASH & FOLD( https://wash-fold.com/ )という洗濯代行事業を住居の一階部分に、その隣に民間の保育園を併設し、上階にシングルマザー用のシェアハウスという環境を創出しています。経営者は地主さんです。

 

シングルマザーはダブルワーク、トリプルワークをして頑張っている人も多い。シングルマザーの収入を急に増やすのはなかなか難しいので、住まいと職場、保育を近くすることで、負担なくダブルワークさせてあげたいと、取り組まれています。

 

他にも兵庫県宝塚市の株式会社ポラリスでは、自立支援型介護事業所に保育園とシングルマザーのシェアハウスを併設した複合施設を2019年春に開設予定です。実際に、シングルマザースタッフ3名がプロデュースに関わっています。全国で、子供を産みたいけれど産めないと困っている未婚者や、行き場に困るシングルマザーにここにきて経済的に自立して欲しいとおっしゃっていました。

 

このような今までになかったタイプの住宅も誕生しています。他にもシングルマザーの「育・職・住」を備えた移住支援も盛んになってきています。たくさんの新しい選択肢が増えてきています。

 

シングルマザーの住宅問題を相談できるところがない

 

―シングルマザー、プレシングルマザーで住宅問題の相談はどこにしたらよいのでしょうか。

葛西さん …それがないのです。仕事をしていない、決まってない人は何から手をつけたら良いかわからない。行政の窓口に相談に行く方が多いけれど、行政は住まいの専門家ではないし、立場上、特定の法人は紹介できないのでNPO法人を紹介することになります。NPO法人も住宅の専門ではなく、物件を持っているわけではないのですぐに相談者が求める答えは出せません。身内に頼るか実家に帰る選択になっているようです。

 

―新しい取り組みも情報を得ている人といない人で格差ができますね。

葛西さん この(シンママStyle)ようなサイトが出来てきて、時代にあった情報収集ができるようになったのは良いことだと思います。

 

―ではプレシングルマザー、シングルマザーが新たに住居を求める時の提言はありますか。

葛西さん やはり金銭的に苦しく吟味する時間も余裕もないので、色々と妥協し安さに飛びついてしまうケースが多い。また、緊急の場合、全財産、預貯金を注ぎ込んで家を借りてしまうケースもあります。

 

しかし、住環境というのは生活の「基盤」となるものです。とりあえず転居して、その住宅に欠陥があっても、金銭的な事情等から簡単に引越しできないような場合、精神的、肉体的苦痛など、色んな支障が出てきます。そうならないために、費用負担の少ないシェアハウスに入居するなどして、じっくり選択する時間を確保することも選択肢の一つとしてお勧めします。

 

そして、離婚前に住まいを探しておくことも重要です。残念ながら不動産業者の風当たりはまだ強いので、スムーズに行かないことが多く、我慢と妥協の連続かもしれません。しかし、ご自身が何を生活する上で大切にしておられるか、子どもの環境か、仕事か、地域のコミュニティか。何を軸にして生活を創っていきたいか、住宅単体だけではなく、地域の資源も含め頭に描きながら検討されるといいように思います。

 

これは、簡単なようですが、離婚前後はすごく気持ちが揺れうごき、優先順位がぶれてしまうことが多いのです。また「ケア」の有無について忘れがちですが、シングルマザーは基本ワンオペ(※ワンオペレーション 一人で全てをこなすこと)です。育児等の、ケアの部分は必要不可欠なことなので、その住宅、その地域で、仕事と育児を円滑に両立できるかどうかも検討してください。

 

コミュニティとケアの機能を持った「育・職・住」を選ぶ

 

―社会としてはどのように変わって行くとお考えですか。

葛西さん コミュニティとケアを重視した方向へ進んで行くべきだと思っています。シェアハウスは選択肢の1つであり、そこでできることに限界があります。そこを退去したのちどうやってそのコミュニティを持続させていくのか、シェアハウスでのコミュニティが持続できるよう、周辺の賃貸住居に住めるような仕組みが必要です。そのコミュニティが広がりを見せ、子どもを幸せにし、結果、地域を救うのではないかと考えています。

 

また、なんらかのケアやコミュニティが付帯した住まいへのニーズが高まると考えています。人口も減少し、空き家も増え、なんの根拠もなく、住宅市場が「シングルマザーは嫌」と言っていた時代は終焉を迎えました。社会も急速に変わり、シングルマザーを住宅消費者として位置づけ、そのニーズを捉える方へ寄ってきています。

 

共働きの子育て世代とシングルマザーの生活問題は似通っています。シングルマザーに優しい社会は子育てしやすい社会なはずです。それが、最終的には子どもに優しい環境へと繋がっていくと考えます。

 

空き家が増える住宅市場の中で、こういったニーズをとらえて、自己の利益だけではなく、入居者や地域の利益も含めて計画できる事業者さんが生き残っていくのではないかと思っています。

 

―今後の活動予定を教えてください。

葛西さん 今までは、全く実態が明らかになっていなかったシングルマザーの住宅問題の実相を掴むことに終始していました。非常に深刻な、それでいて見えにくい大問題を明らかにし、次は、その問題をどうやって解決していくかと思案した先に、シェアハウスという一つの可能性を見いだしました。

 

これまで、全国30カ所のシェアハウスの現場を渡り歩き、メリットや課題を明らかにしてきました。現在、その取り組みをよりよい方向に導くために、シェアハウス事業者の組織化を目指しています。今後は、そのネットワークを活かして、シェアハウスに限らず、全てのシングルマザーのニーズに寄り添った住環境づくりをしていきたいと考えています。

 

 Profile

葛西りささん

1975年生まれ。2007年神戸大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了(学術博士)。2007~08年神戸大学大学院工学研究科COE研究員。2008年~大阪市立大学都市研究プラザGCOE研究員。2011年~大阪体育大学非常勤講師(11年~健康福祉学部家族福祉論、NPO論、15年~教育学部家庭と社会)。2013~15年神戸女子大学家政学部非常勤講師(生活経営学、15年~生活福祉学、ライフスタイル論)。2013~15年財団法人高齢者住宅財団主任研究員。2017年4月~立教大学コミュニティ福祉学部所属日本学術振興会RPD研究員。ブログ:http://kuzunishilisakenkyu.wordpress.com/

(プロフィール画像:ふぇみん2017年11月25日号掲載 撮影:谷口紀子)


著書:『母子世帯の居住貧困』(2017年日本経済評論社発行)

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