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行政目線をぶっ壊す。 “本気”の子ども支援策で明石から日本を変える(中編)


【明石市長 泉 房穂氏】

 

明石市内の28ある小学校区すべてにこども食堂を設置

 

―こども食堂にも力を入れていますね。

泉市長 こども食堂も全小学校区に開設できました。明石市には、人口30万人に対し約1万人に1校の割合で計28の小学校がありますが、今年7月にすべての小学校区にこども食堂が立ち上がって、現在37ヵ所で展開されています。全国でも明石だけです。こども食堂は広がっていますが、国も県もおかしなことに、市に1、2ヵ所の設置と言います。これは大きな間違いです。このような考えは行政目線で、子ども目線ではありません。送迎付きならまだしも、通常、小学校に通う子どもは自分の校区を出たらいけませんと言われるわけですから。子どもが自分の足で通える場所にこども食堂がなかったら、すべての子どもは行くことすらできません。

―確かにそうですね。

泉市長 当然、市内全域に目配りすると、すべての子どもがこども食堂を自由に利用するためには、すべての小学校区に必要なことは当たり前なのです。「ぼくたち、わたしたちの家の近くにできたよ」でなければ意味がない。

―他の地域では、こども食堂というとレストランの運営者が自分で経営されている場合や、有志が集まって自ら運営しているケースが多いと思いますが、明石市の場合はどういう仕組みで全小学校区に展開しているのでしょうか。

泉市長 37ヵ所もあるのでいろいろですが、飲食店が運営しているところもあります。しかし、多くは自治会や民生児童委員、地域のボランティアが公共空間、公民館で開催してくれています。明石の強みは地域が強いことです。地域が強くなると何が起こるかというと、地域の支え合いができますので、児童虐待防止の際、早い段階での子どもへのネグレクトや危険に気づくことができます。

実は、虐待については通報による家庭訪問も大切ですが、こども食堂が一役買っていることもあります。こども食堂で「あの子、来てないけど、気になるね」という情報収集もできますからね。

例えばそういった子どもがいる家庭に訪問したら、もしかしたらネグレクトかもしれませんし、親からすると子どもを外に出せないような状況かもしれません。このようなことに気づく意味においても、全校区にこども食堂を配置しています。

―異変に対する「気づき」にもこども食堂は役立つということですね。

泉市長 もし何か問題があるようであればアウトリーチしていく。必要な場合は毅然と一時保護をします。一時保護した後も、放置して施設へ送るということだけではなく里親につないでいく。明石市の場合には、こども食堂の全小学校区の配置と、しっかりした児童相談所づくりと、その後の里親のフォローというのは全部つながっているのです。パッケージとしての子ども総合支援としてやっているのであって、単に児童相談所の箱物を立派に建てるというのではなく、ちゃんと子どもの立場に立って、継続して子どもの発育や、子どもに愛情と栄養が行き届くようなまちをつくるという観点で行っています。

皆様は個別に色々なことに取り組んでいる市長と思われているかもしれませんが、私の中では全部つながっていて、里親とこども食堂と児童相談所は私にとってはまったく同じ話なのです。離婚のテーマも虐待とつながっていますし、当然子どもの貧困にもつながっているのであって、子ども施策というのは1個1個切り貼りするというものではなく、全部つながったものなのだと思います。

離婚前後の子どもや結愛ちゃん事件のようなステップファミリーなど、離婚や再婚は生活環境が大きく変わるので子どもにとってリスクなのです。

そこに周りが気づいてあげるとか、行政の立場でなく子どもの立場に立ち、しっかりと子どもに対して、親ではない違う目線が入るようにしていかないと、子どもを救うことはできない。

 

皆、行政主導に慣れてしまい疑問を持たずに受け入れてしまっている

 

―たくさんのアイデアは、どこから発想が浮かぶのでしょうか。こども食堂を全小学校区に配置することにしても、児童扶養手当が通常4ヵ月に一度の支払いのところ、毎月払いのように貸し付ける制度にしても聞いたことがありません。

泉市長 特別な発想というより、普通に考えればそのほうがいいと思うだけです。皆、行政主導に慣れてしまい疑問を持たずに受け入れてしまっている。

貸付金の件についても、その児童扶養手当は誰のお金なのかということです。お父さんのお酒代でも、お母さんのパチンコ代でもありません。子どものためのお金は、子どもにいかないとだめなのです。家計管理が難しい4ヵ月に1回の支給で、お母さんの衣服代や借金返済に当てられてしまったら結局子どもには届きません。4ヵ月まとめて支給して楽なのは行政だけです。

子どもに届くためにはどうすればいいかというと、できるだけ家計管理しやすいように1ヵ月単位で支給する方がいい。また、去年モデル事業を行なったときは、単なる振込ではなくて、家庭訪問をして現金を渡して、家計管理の家計簿をつけるお手伝いをしたり、家の掃除も手伝ったりしました。

つまり、単にお金を配るわけではなく、そのお金をしっかり行政がお届けして、このお金を子どものために使ってくださいねと渡す。そのお金の行き先が、子どもに対して栄養や愛情に変わっているところまで見届けるのが行政の責任だという観点なのです。

とりあえず申請があり、条件をクリアしているから振り込んだらいいだろうというスタンスではなく、行政が子どもに対して責任を持ち見守る。まさに、子どもは親の持ちものではなく、子どもはまちの未来であり、まちの宝であるからこそ、行政が預かっている税金でもって責任を果たすのです。この理念が大きいと思います。

子どもだけではありません。一例を挙げると、明石市ではお年を召した方にも敬老金の給付事業を続けています。高齢者へのばらまきで無駄だという意見も多い。ばらまきかどうかは行政のやり方次第だと思います。対象年齢だからといって、100歳の方に銀行振り込みをして意味があるのかということです。明石の場合は77歳、88歳、100歳のときに1軒1軒現金を持って行きます。単にお金のばらまき事業ではなく、実際の老老介護の状況を確認したり、認知症が始まりかけていたら行政につなぐということをしています。高齢者に対しても家庭訪問をし、見守り、そこで気づき、行政がしっかり支援するという施策です。

すべてはつながっているのです。こども食堂や子どもへのアウトリーチと、お年を召した方に対する敬老金もつながっているのです。いずれも行政のスタンスの問題です。もちろん、職員は大変だし、民生児童委員の協力を仰がないと運営できませんが、それなら仰げば良いと思います。行政だけでできないことは、地域の心ある方々の協力を得ればいい。そうしてこども食堂も実現できたのです。

理想や気合だけでは実現できません。こども食堂に関しては、明石市は初期投資の部分で5万円をお渡ししています。1回こども食堂を開催していただいたら現金2万円を更にお渡しします。開催するボランティアの人たちからすると、1万円や2万円のために領収書を細かく全部ノートに貼って提出してと言われたらうんざりします。儲けがあるわけでもないし、面倒だし辞めておこうとなってしまう。領収書に割く時間があったら子どもと遊んだり、話し合ってほしい。なので、使途も細かく言わず領収書も必要ありません。信頼して2万円お渡しするのです。最低限の実費くらいは市が税金で持つんだという姿勢を持ったことが、広まった理由の一つだと思います。

 

行政にお金がないのではなく、無駄遣いを続けているだけ

 

―これだけの大改革をし、市の職員数も大幅に増やされていますか。

泉市長 やることは増やしていますが、市の職員数は減っています。市長になって最初のうちは、私も他の行政と同じく明石市もお金がなく、人が足りないと思い込んでいました。職員も膨大な仕事の中頑張っていると思い込んでいました。

しかし、行政にお金がないのではありません。無駄遣いを続けているだけだったのです。本当にしなくてはいけないことに回さず、しなくてもいいところにお金をずさんに注いでいるだけなのです。

しなくてもいい仕事までやっているから、仕事が手におえないほど膨大になるのであって、精査をして本当にしなくてはいけない仕事と、したほうが望ましい仕事の優先順位をつけながら仕事をすれば、まだまだ人員は削減できると考えています。

 

明石市が行なっていることは先駆的ではなく「当たり前」のこと。他の行政もすぐに実行できる

 

―「行政は何事も時間がかかる、対応が遅い」というイメージが定着しています。明石市は取り組むスピードがとても早く、先駆的に見受けます。このスピードの元は何ですか。

泉市長 発想が逆だと思います。まず、明石市が行なっていることをよく「先駆的」だと言われますが、これはまったくの間違いで「当たり前」なのです。世の中みんなが当たり前のことをしていないから、明石市が当たり前のことをしているだけなのです。例えば、日本だけが異様に子どもに冷たいので、せめて明石市だけでも他の国並みにと対応しているというイメージです。

明石市の政策は変わったことでも先駆的でもなく、日本全体が遅すぎるのです。そして、当たり前のことだからこそ、明石市から日本全国に広がり得るわけです。そしてスピード感についてもまったく速いとは思っていません。私は遅いくらいに考えています。つまり、市民に近い自治体であれば、今日、明日で実行できるのです。国、県、市で、国がトップにあり、その国の指示を受けた都道県が取りまとめ、市に指示がおりてきて、それを待って、その指示に従いながら、対応するのが自治体であるというのが大きな間違いです。上下ではなく、一番市民に近いのは市なのだから問題や対策の必要性をダイレクトに感じることができます。ダイレクトに受けたものにすぐに対応するだけで、とてもシンプルなのです。

一例を挙げると、成年後見の問題です。いわゆる知的障がいの場合の財産管理で、自分自身では判断が難しいので成年後見を利用する必要があるという場合に成年後見を利用してしまうと公務員として働くことができなくなります。公務員の現業現場、つまり草むしりなどでもクビになると法律で決まっています。「これはおかしいことだ」と明石市は2年前に条例でそれでも働き続けられる、それでも公務員試験を受けられるように変えました。このテーマは今年6月に国会で、議員立法で法案が提出されました。明石市が行なったことが、わずか1〜2年で国の法律を変えていっているということです。

この他にも、明石市で行っているいくつかのことはすぐに実施できることが多いのです。離婚時の養育費の参考書式を配ることも、離婚前の講座や相談会を実施することも、そんなに時間やお金はかかりません。明石市が行っていることは、他のまちが真似しやすいようなとこから始めているのです。

 

人口V字回復、出生率も向上

 

―明石市の人口はV字回復、出生率も高くなってきています。3大都市圏を除く地方で人口減少や出生率低下が進む中、全国的にみても明石市は注目されています。養育費の支払い率も全国平均より1割も高い。

泉市長 すべて上がってきていますね。端的にいうと、子どもに対して、お金も人もエネルギーもかけているというのが大きい。実際、明石市の場合、市が使う一般会計の予算というのは1年間に1,000億円です。私が市長になった7年前の子ども予算は100億円くらいでした。全体の1割です。でも今は200億円を超えています。つまり、子どもの予算を1割から2割に倍増しました。これは全国でも明石市だけだと思います。養育費以外から100億円を子どもの予算に回しているわけです。

子どもに関係する職員は、私が市長になる直前までは30数名でしたが現在は100人を超えています。加えて、土日夜間に子どもに会いに行き、寄り添い、汗をかくということもしていますから、お金も人もそしてエネルギーも本気で子どもに注いでいると思います。そうすると何が起こるか。結果的に明石市で子育てをしたい、暮らしたいと思う方が増えてきました。

遊びに来る方や市民も含め、明石駅前の人出が4割も増えました。人口については、人口減少が続いていたのが下げ止まり6年連続人口増加。人口増加数は、関西において大阪市に次いで2番目に多く、人口増加割合は東京23区を上回っています。一極集中である東京よりも明石市のほうが、人口が増えています。どんどん人が集まってきています。

特徴的なのは、引っ越してくる方の多くが30代前後の子育て層の家族だということです。第1子を連れて3人家族で引っ越しをしてきて第2子、第3子と産み始めている。明石市であれば住居費、生活費も抑えられるうえに年収制限もなく、こども医療費も無料です。都会だと一人育てるのが精一杯で2人目の子どもは望めないけれど、明石市なら2人目、3人目を産める、育てられると思って転入してくるのです。だから出生率も上がってきています。新生児の数も3年連続増加し続けています。

人が集まり、移り住み、そして新生児も産まれ始め、その結果、まちがどんどん潤ってきて地域経済が活性化し、税収もどんどん増え、良い循環が起きているのだと感じます。

 

子どもに対し“本気”でお金を使うことによって、まちが元気になることを証明した

 

泉市長 現状、高齢者が増えている中、子どもにばかりお金を使えば行政が破綻するということが嘘であることを証明しました。みんな勘違いをしていて、お金が余ったら子どもに予算を回すというのが現状です。それでは駄目なのです。お金がないから子どもに回すのです。ここの観点は大変重要です。お金が余っていたら子どもや福祉にお金を回せるけれど、厳しい時代だから無理だと諦めている。そうではなく、お金がないのは行政ではありません。お金がないのは市民です。子育て層こそお金がない。お金がなくて困るのは誰か。それは親ではありません。子どもなのです。ですから、税金を預かっている行政は子どものためにお金を「本気」で使う。そうすると子どもも助かるし、子どものいる家庭も助かる。そうするとそのお金が地域経済の活性化になるような形で外食をしたり、物を買ったりするわけです。そうやって地域の活性化をしていけばいいと思っています。

私が市長になって明石駅前を徹底的に変えました。消費者金融、ゲームセンター、サラ金、パチンコ屋がメインだった駅前から、逆に子どもが集まる場所にしました。遠いところにあった図書館を「明石駅」駅前に持ってきて、面積を4倍、本の数を2倍にしました。

お金がない時代、つまり市民がお金に困っている時代だからこそ、預かっているお金で本を買う必要があると思いませんか。

各家庭が1冊1,500円、2,000円の良い絵本を子どものために頻繁に買うことは難しい。であれば、預かっている税金で良い絵本をいっぱい買いそろえて、その本を子どもたち何十人、何百人に読み継いでもらう。各家庭が子どもにとって望ましい絵本を読み聞かせできる時間と、そして愛情の時間を持てるわけです。預かっているお金で20人、30人と読んでもらえれば、そのお金でみんなが楽しめる。そして、本来絵本を買わなきゃいけなかったお金で子どものためにお金を使えばいいわけです。家族で誕生日に外食に行こうかとなれば、まちの飲食店が儲かりますよね。

つまり、預かっている税金を本当に必要な子育て層に対してしっかり還元し、回すような仕組みにする。子どもへのお金はばらまきではない。

そして充実した環境になってくると全体的に少し余裕ができてきて、さらに頑張ろうという気持ちが起こり、市民も行政に目が向く。お金がない時代だからこそ、一番リスクを負う子どもたちに、そして子どもを抱える家庭に対して底上げというか、そこに必要な施策を、預かっている税金とそのお金で働かせていただいている職員が実現するのだと。だから、お金も子どもに使う。人も子どもに向き合う。そして本気で行う。そうすると、まちが元気になってくるということだと思います。

 

前回の記事はこちら↓
行政目線をぶっ壊す。 “本気”の子ども支援策で明石から日本を変える(前編)
続きはこちら↓
行政目線をぶっ壊す。 “本気”の子ども支援策で明石から日本を変える(後編)

 

 Profile

泉 房穂(いずみ ふさほ)さん
兵庫県 明石市長

1963年、兵庫県明石市生まれ。東京大学教育学部卒業後、NHK、議員秘書などを経て司法試験に合格、弁護士として働く。2003年~2005年まで衆議院議員を務める。2011年より現職

泉 房穂ホームページ
http://www.izumi-fusaho.com