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「個人的な問題は社会的な問題だ」 派遣法の歴史と派遣労働者・シングルマザーを取り巻く問題点

れいわ新選組所属 渡辺照子さんインタビュー 後編

 

シングルマザーとして、派遣労働者として、さまざまな苦労を経験してきた(前編参照)というれいわ新選組所属の渡辺照子さん。2019年参議院選挙に立候補して派遣労働問題について熱く訴えていました。シングルマザーや非正規労働者の待遇を本人の問題だと言う人もいますが、渡辺さんは「個人的な問題は社会的な問題だ」としています。後編の今回は、派遣労働者を取り巻く問題点、現在の環境でシングルマザーはどうすればいいのかなどについてうかがっていきます。(聞き手/編集部 文/財部 寛子)


渡辺 照子(わたなべ てるこ)さん
れいわ新選組所属。1959年生まれ。1980年武蔵大学中退、出産。25歳のときに2人の子どもを残して配偶者が失踪。保育園の給食調理、保険営業などの仕事を経て、2001年に派遣労働者として勤務したが、16年8ヵ月後、一方的に雇い止め通告を受ける。現在、れいわ新選組に所属し、非正規労働者の待遇・賃金格差などについて、街頭宣伝なでで問題提起をしている。主な共著に『シニアシングルズ 女たちの知恵と縁』(大月書店刊)などがある。

 

派遣法は男女雇用機会均等法のバーター。雇用分断化のきっかけに

 

―渡辺さんは、派遣労働者として16年8ヵ月勤めていた会社で雇い止めに遭ったということですが、派遣労働の問題を理解するために、労働者派遣法(以下、派遣法)の流れを詳しく教えていただけますか。

渡辺さん 派遣法が制定されたのは1985年、施行されたのが1986年です。1985年といえば、男女雇用機会均等法が制定された年でもあります。この2つの法律ができた1985年は、雇用の分断元年だと私は考えています。

―どういうことでしょうか。

渡辺さん 男女雇用機会均等法は、“性別に関係なく平等に働く機会を与えられる”という法律です。そこで、企業側は女性の総合職と一般職を作りました。総合職はまさに男女雇用機会均等法に則って、残業も転勤も厭わない、管理職にも昇進できるという男性社員並みに働く女性を採用しました。一方で、転勤はないけれども、何年勤めても仕事の内容や責任の重さはほとんど変わらないというのが一般職です。しかし、少しずつであっても昇給はしていきます。そうなると、仕事の内容と給料に乖離が生まれてきます。分かりやすくいえば、簡単な仕事しかしないいわゆる“お局さん”が増えてしまう。その結果、企業側は一般職のキャリア形成を考える必要はないのではないか、一般職の仕事は給料の安い派遣社員にやらせればいいのではないか、となるわけです。その代わり、過去の私のように派遣社員が業務の範疇を超えて、庶務・雑務、あるいは専門的な仕事をするようになってしまう。このように、派遣法は男女雇用機会均等法のバーター的な役割をし、雇用が分断化されていくことになったと私は考えています。

―さらに、1999年に派遣法が改正されたときにも注目が集まりました。

渡辺さん このときは大幅な規制緩和がなされました。派遣社員に任せてもいい職務が拡大したのです。そうなると、正社員になれない人たちは派遣社員になるという形で、非正規雇用の人たちが増えていくことになりました。

―就職氷河期の世代にもそういった人が多いことが問題になっていますよね。

渡辺さん そうですね。生まれた世代は選ぶことができません。バブル期と比較すると就職氷河期の世代の就職状況はがらりと変わりました。つまり、職や雇用形態を選べない世代・シングルマザー、非正規雇用者の問題はすべてつながっていると考えられます。

 

非正規労働者の自助努力を問うことは間違っている

 

―なかには、「本人の努力の問題」とされることもありますが、その点についてはどう考えますか。

渡辺さん その考え方は間違っていると思います。自己責任であるとか、自助努力が足りないという言葉でおさめようとしている風潮は、「合成の誤謬」だと思っています。

―合成の誤謬とはどういうことですか。

渡辺さん 経済用語なのですが、それぞれの人や企業が考えて行ったことが、意図しないトレンドなどになってしまうことを指しています。この非正規雇用の問題でいえば、労働契約法は雇用の安定化を目的としていました。しかし、企業側からすると先行き不透明なために正社員を採用したくない。一つひとつの企業がそういったことをやった結果、雇用市場を凍らせ、就職氷河期のロスト・ジェネレーション世代を作り出しました。にもかかわらず、人手不足だと騒ぐことになり、結局、自分たちのクビを自分たちで絞めることになっているのです。企業が長期的な展望を立てられなかったことがこういった事態を招いた理由だとは思いますが、この矛盾したような流れを合成の誤謬というんです。

―現在では、兼業・副業・複業などを推進していますね。

渡辺さん 政府は、「多様な働き方」という言い方をしていますが、これは「多様な不安定な働き方」と読み替えないといけないと考えています。テレワークやインデペンデントワーカーなど、雇われない働き方は、労働者の保護性が欠落しているか、極めて希薄になります。企業の雇用責任が問われない働かせ方を推奨しているということになりますからね。そこに雇用の選択肢が狭いシングルマザーも放り込まれているということにもきちんと目を向けていかなければならないと思っています。

 

シングルマザーは「自分を肯定する」ことが大切

 

―とはいえ、現在の状況がすぐに大きく変わるわけではないと思います。現在、仕事や生活で苦しんでいるシングルマザーはどうすればいいのでしょうか。

渡辺さん まずは、マインドを確立することです。

―どういうことですか。

渡辺さん シングルマザーは自己尊重感を極めて損なわれる形での生活を強いられています。法律や制度は、シングルマザーが生きていけるような仕組みにはなっていません。実際に、日本で暮らすシングルマザーの80%以上が「生活が苦しい」としているんです。しかし、同じく80%のシングルマザーはきちんと働いている。ということは、働いていても生活が苦しいシングルマザーがほとんどただということになります。

―その結果、シングルマザーは自分を責める人が多いと聞きます。

渡辺さん そうなんです。「こんなに働いているのに、子どもにちゃんとした生活を送らせてあげられない」と思ってしまう。しかし、そうではないんです。私は自分自身にお経のように長く唱え続けてきた言葉があります。「個人的な問題は社会的な問題だ」という言葉です。つまり、シングルマザーが悪いわけではなく、社会に要因がある。そのため、シングルマザーが一歩踏み出すためにも、自分が悪いのではない、「自分を肯定する」というマインドを確立する必要があると考えているんです。

―そこが出発点となるわけですね。

渡辺さん そしてもちろん、社会制度などを学習して知識を持つことも大切です。あともうひとつ、仲間を作ること。世の中には、シングルマザーが集うグループや支援団体などが増えています。そういったところに参加して情報を得ることで、つらい気持ちを共有できたり、支え合ったりすることもできますからね。

―最後に、現在進行形で頑張っているシングルマザーにメッセージをお願いします。

渡辺さん 私はよく街頭宣伝で「痛みを強みに、貧困や苦しさをバネにして、それをむしろ力にしていく」ということを話しています。現在つらい状況にあっても、世の中はすぐには変わりません。簡単な解決策も見つからないと思います。しかし、年数を重ねて、いろいろな人との出会いのなかで、今の体験が強みや財産になっていくと思います。将来、後輩のシングルマザーに「あなたの気持ちが分かるわ」と実感をこめて言えるだけでも大きな財産だと思います。私たちは、つらい思いを抱えている人たちが少しでも幸福になるように願い、次なる目標をめざし、活動を続けていきたいと思っています。