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自己責任論が強く、失敗が許されない社会のひずみで生きるシンママたち

養育費支払い率の低さ、母子家庭の貧困率が問題視されるなか、共同親権へと法律改正の動きが高まってきている。しかし、依然として離婚原因ではDV問題が多く、社会構造や社会通念が整わないなかで、安易に共同親権制度となると、そのしわ寄せがシングルマザーに寄ると、関係者たちは警鐘を鳴らしている。共同親権になれば諸問題が解決するような簡単なものではないのだ。

 

ひとり親やその子どもに長年関わり、活動を続ける大森順子氏にシングルマザーを取り巻く現状や課題を伺った。(取材・文 浦邊真理子)

 

―共同親権への動きが活発化しています。共同親権となることで、養育費の支払い率が上がるとされ、面会交流も活発化し、子どもの権利が守られるとされていますが、どのようにお考えですか 。

大森さん 養育費の支払い率20%とされ、母子家庭の2世帯に1世帯が貧困状態にあると問題になるなか、共同親権にすることで、養育費の支払い率を上げ、国が支払交付金の増加を食い止めようと政府も養育費を支払うよう舵を切り始めました。

 

「別れてもお父さんもお母さんも親には変わりない」夫婦の問題と親子関係は別問題なので、長い目で見れば、いずれ共同親権制度は必要になるかと思います。

 

円満離婚や、経済的に裕福な家庭の場合は共同親権をスムーズに受け入れられるでしょう。しかし、DVやモラハラ(モラルハラスメント)からの離婚が多数を占める昨今、逃げて暮らしている状態で共同親権になったらどうなるでしょう。現在の男女不平等な社会のままで共同親権になると、女性の側にあまりにも負担が大きく、時期尚早だと思います。

 

子どももトラウマを抱えているなか、共同親権を求めていないケースも多いのが現実ではないでしょうか。一律ではない細やかな対応が必要だと思います。

―面会交流について、どのようにお考えですか。

大森さん DV問題で元夫婦間で交流できない場合、都会では面会交流を請け負う第三者機関もありますが料金は高く、地方部ではまだまだそういった機関自体が足りていません。また、離婚時の取り決めで面会交流することになっているが、母親から何とかして会わせない方法はないかという相談が多くあります。

 

離婚に至るまでの長い夫婦生活の中で、子どもをめぐる夫婦間の葛藤は相当大きいものがあるのでしょう。子どもにとっても、両親の間で揺れ動く複雑な感情が生じます。一律に面会交流が良いこと、とは言えないと思います。

 

ただ、「あんな父親はいない方が子どもにとっても良いのです」と言われると、それを決めるのは子ども自身であり、父親がひどい人だと思う子どもの権利も奪ってはいけないと、私は思います。

 

一方で、夫婦の問題と分けて考えられないケースが多く、潜在意識下でシングルマザー自身が「子どもは母親のもの」と父親を排除してしまっていることに危なさも感じています。


画像:大森順子さん

 

「母親」「自己」責任論があまりに強すぎる社会

―その原因はなににあるのでしょうか。

大森さん 子どものいる世帯は約1,180万世帯ですが、そのうち母子家庭は約124万世帯。学校の1クラスに数名はシングルマザーの子どもがいるという計算になります。

 

今では母子家庭も「例外的な家族のかたち」ではなくなりました。しかし、未だに日本の社会には「両親がそろった環境のもとで子どもは育つべき」という考え方が根強く残っています。両親と子ども2人の標準モデル家庭数は減少しているのに、標準モデルと異なる家族は、制度上さまざまな不都合が起こる仕組みになっています。家族を作ったらスムーズに暮らせる社会は多様性を認めてきませんでした。

 

そんな社会構造に上乗せして、「母親なら子どもをちゃんと育てるべき」といった母性優位の考え方が根強くあります。 子どもの安全、教育,そして子どもの貧困問題さえも「母親がちゃんとすべき」とする社会からのプレッシャーが非常に強く,他人の目を意識して、「良い母親」をずっと演じなくてはなりません。

 

手作りの温かいご飯を一緒に食べ「なくてはいけない」、家事育児は母親がし「なくてはいけない」、母親は優しく笑って「なくてはいけない」、みんなと一緒の習い事をさせ「なくてはいけない」という義務感に囚われすぎて疲れてしまっています。

 

最近ものすごく増えていると言われているネグレクト(養育放棄)も表裏一体で同じなのではないかと思います。 私は,ネグレクトの概念自体が,良い母を想定した上で,母親を苦しめているのではないかと思います。

 

今、すごく子育てがしんどい

 

―無言のプレッシャーや、情報化のせいでしょうか。

大森さん いったいどこまでがネグレクトなのか,誰がネグレクトだと決めるのでしょうか。例えば,私も母子家庭でしたから,子どもはけっこう放ったらかして育ててきました。私が子育てをしていた当時は「ネグレクト」という言葉はありませんでした。

 

社会全体も今のように「子ども中心」でなかったように思います。朝ご飯がないとき,子どもに「お菓子でも何でも食べて行って」という日もありました。かつては誰でもそのぐらいあったと思いますが,今だったら「ネグレクトではないか?」と言われてしまうかもしれません。

 

身近にあった実話で、母子家庭で夜のお仕事をされているお母さんがいました。子どもを預ける場所がなくて,子どもを家に置いて仕事に行っていました。たまたま子どもがベランダに出て泣いていました。すぐ通報されて,お母さんは指導され「ネグレクト」です。仕事に行っていたんです。でも「子どもを置いて夜の仕事なんて」と責められる。夜間に子どもを預けるすべはなかったのでしょうか。

 

母子家庭は働けと言われ、働いたらネグレクトと呼ばれる

 

最終的にどうなったかというと、生活保護を受けるようになって、お母さんは仕事を辞めて家にいるようになりました。せっかく頑張ってお仕事していたのに、何か違うのではないかと思います。9時から17時まで働いて子どもと自分が楽しく生活できる社会であれば、生活保護にならなくても、児童扶養手当に頼らなくても良いのではないでしょうか。

 

ネグレクトとは誰が決めるのかという,母性主義みたいなものではないでしょうか。母性主義と女性が働いて子どもを育てられない世の中の仕組み、雇用環境における男女間格差、何重にも育てにくさが重なっている。

 

「こうじゃなきゃいけない」という枠組みを外した様々な生き方、多様性を認める社会になっていかないと、誰もが伸び伸びと生きられないのではないかと思います。

 

シングルマザーは一つの生き方

 

―多様性を認める社会を求める声が聞こえるようになってきました。

大森さん 離婚であれ非婚であれ、未だにシングルマザーに向けられるまなざしは、さびしい女性、結婚に失敗した人、わがままな女…そんなイメージがついて回ります。バツイチと言われ、まるでダメな人のように言われ、そんなことが続くと、それでなくてもしんどい日々 が、さらにつらいものになります。そして、もっと問題なのは、シングルマザー自身もマイナスのイメージを内包してしまい、自ら日の目を避けるように生活してしまうことです。

 

「子どもには、父親が必要ですよね」、「やっぱり、 女性一人では老後は寂しいですよね」「再婚しないと金銭的にも生きていけませんよね」そんな相談を受けます。

 

果たしてそうでしょうか。夫がいてもいなくても、人はだれでも基本は一人です。むしろ、夫がいるのに寂しい日々のほうが、一人よりもずっと寂しいのではないでしょうか。男性と一緒に暮らしていても育児に関わらない、虐待するなど酷いケースもあります。だからシングルマザーになったのに、経済的にも心身も辛く、結局男性に依存するしか方法はないのかと思ってしまう。

 

私自身も、離婚をして多忙な日々で疲れを感じることもありました。 それでも、自分で働いてお金を稼ぐ、そのお金で生活をする、時間も自由、何をするのも自分で決める、そして自分ですべてに 責任を持つ、そんな暮らしが、今までに無かった清清しいものだと気づくことができました。一つの生き方として自信を持ってほしい。

 

親以外のおとなたちによる子育ての必要性

 

―大森さんは、かつて子ども情報研究センターでもお仕事をされ、今も日々育児中のお母さんや子どもと関わっていらっしゃいます。そのうえで育児についてどうお考えですか。

大森さん ひとり親の子どもは可哀想な存在ではありません。子どもに父親がいなくても、たくさん周りに大事に思ってくれる大人がいるならそれで十分。離別ならば、一緒に暮らしていないだけで父親はいる、いないわけじゃないよ。と伝えています。

 

子育てはできるだけ多くの 人の手で、できるだけひらかれた形で行うことが望ましい。子どもはたくさんの人と出会い、さまざまな人がこの世の中にいることを知り、いろいろな考えがあることを学んで成長していく。多くの人が、ひとり親の子ども=可哀想と決めつけてかかるけれど、実際ひとり親の子どもたちの話を聞くと、「私たちは可哀想じゃない」「楽しかった」と口をそろえます。

 

何年か前に、LGBT(レズビアン・女性同性愛者、ゲイ・男性同性愛者、バイセクシュアル・両性愛者、トランスジェンダー・心と体の性が一致しない人の英語の頭文字をとった言葉)と、ひとり親家庭の子どもたちがいっしょに遊ぶ交流会を開催しました。LGBTの方々は子どもを持つことが難しい人も多く、子どもが好きでも交流がないという問題があり、子ども達も母親以外の大人となかなか遊べない、特に男性と遊ぶ機会が少ないという問題がありました。色んな人と出会ってその中で育つこと、お母さん、お父さんだけで子育てせずに、周りの たくさんの人たちと一緒に子どもを育てていくことこそが、子どもにとってもシングルマザーにとっても大切で、虐待をなくすための一歩にもなると思います。

 

子どもも子育てしている人も、決して孤立させてはいけないというのが一番の思いです。

 

―大森さんが代表を務める「シングルマザーのつながるネット まえむきIPPO」について教えてください。

大森さん 私は、自身の経験から「プレシングルマザー」状態にある女性たちこそが、情報もなく孤立しており、一番しんどい立場にいるのではないかと思っています。漠然とした不安は先の生活の見えない不安です。夫のいない生活とはどういうものなのか、自分で生活していくとはどのようなものなのか、想像できない、具体的な姿が見えない、それが不安を掻き立てるのはないでしょうか。

 

離婚したい、離婚するしかない、でも踏み出せない、離婚したいけど相手が認めてくれない、そして、子どもとお金の問題で未来が見えないストレスを抱えた状態で悩み続けています。この一番辛い時に寄り添い、相談する一歩、前向きになる一歩を踏み出せるようにと、「IPPOさん福袋」を作りました。

 

「シングルマザーのつながるネット まえむきIPPO」は、さまざまな課題を抱えたシングルマザーやプレシングルマザーに対して、専門分野の団体や人をネットワークでつなぎ、そのネットワークで課題解決にあたります。シングルマザーが抱える多岐にわたる課題を、ネットワークでつながった団体たちで解決することを目的とした会なのです。

 

「IPPOさん福袋」も、ネットワーク団体が出会ったプレシングルマザーに対し、その団体から渡していただくシステムにしています。


「IPPOさん福袋」画像提供:「女性のための離婚相談 まえむきIPPO」

 

この袋の中には、たくさんの応援メッセージ、情報、プチギフトが入っています。現在はネットやサイトで情報収集できるようになってきましたが、悩みにそって相談できる相手、適切な相談窓口が必要だと思います。

 

子育て中だけじゃない、子育て後のシングルマザーの問題

 

―現場で実問題と向き合うなかで、最近問題と思うことはありますか。

大森さん シングルマザーはずっと貧困です。そして年を取ると更に悲惨です。40代になり子どもが成長し、児童扶養手当の受給が切れること、年齢的にも仕事や体力も辛くなります。年金はまともに掛けていませんし,貯金もないですから,シングルマザーは自分の老後のことは考えないようにして,何とか毎日を暮らしています。

 

しかし、病気に罹る、仕事での挫折、恋愛が失敗する、少しのきっかけで精神的不安に突然落ち込む、雪崩のように崩壊してしまうケースをよく見ます。そして「男」にすがるという方法が楽なのではないかと思ってしまいます。あまりの生活の過酷さで「前の夫が悪かっただけで,別の男だったら大丈夫」と、「結婚したら何とかなる」という家族主義がすぐに入り込んでしまう。 子育て後も女性がひとりで生きていくことの難しさを感じています。

 

40代でこれからを担う人たちが疲れ果ててしまい、今後の女性社会発展へ参加できず逆戻りしている現状です。また、大学での講演や授業を持つ機会も多いのですが、社会問題として母子家庭の現状を学ぶなかで、学生が「シンママ可哀想!そうならないようにどうするか」という考え方をもっていることが気になります。

 

シングルマザーは女性にとって他人事ではない問題ですが、自分と違うという意識を持っている人が多い。失敗をやり直せない社会、魅力的でない社会で「損」をしないように「上手に生きる」ことだけを考えている若者が多くなってきたなと感じます。収入だけでなく、社会保障も年金問題も金持ちか貧乏の二極化が進み、若者の間にも格差が広がっているのではないでしょうか。

 

―女性の貧困、子どもの貧困をなくし、希望の持てる社会にするにはどのようにしたらよいのでしょうか。

大森さん 女性の貧困をどう解決するか。当然,男女同一賃金にするとか,差別をなくすために非正規ではなく正規雇用を進めるとか,いろいろな対策が必要です。しかし、男女同条件だとしても、シングルマザーには子どももいるわけですし,シングルインカムです。

 

今の社会の政策は「家族」が基本になっていますから,男女で給与の差がなくなったとしても、男女のダブルインカムと比べたら,所得は半分しかありません。家族という単位を解体して,個人単位にならない限りは,本当の意味で平等はない,女性や弱者が生きられる社会にはならないと思います。

 

そして、子どもにかかる費用はすべて無償化するべきだと思います。貧しい家庭の子どもであっても,金持ちの家庭の子どもであっても同じように,教育費,住居,食費,医療費も全て無料としない限りは 本当の意味での貧困は解消されないと思います。

 

―最後にシングルマザーにメッセージをお願いします。

大森さん 子どもと離れて、自分の趣味や愉しみを持つことをお勧めします。いつも「子ども子ども」と子どもにだけ向き合い、お母さん役だけを追求しないで欲しい。私は自分の子どもであっても赤の他人で、別の個人だと考えています。自分の人生ですから、自分自身を大切にして欲張って楽しく生きてほしい。私は離婚をして後悔したことはありません。娘からは「欲望に忠実な女」と呼ばれています。最高の褒め言葉だと思っています。(笑)

 

Profile

大森 順子さん

女性のための離婚相談 まえむき IPPO 主宰。1957年生まれ。31歳のとき、一人娘(当時3歳)をつれて離婚。1980年代後半から現在の「NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西」の前身だった「児童扶養手当改悪に反対する大阪連絡会(通称、児扶連大阪)」に参加。その後、NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西事務局長を経て、2013年からプレシングルマザーのための「女性のための離婚相談 まえむきIPPO」を主宰。2016年からは活動をさらに広げ、かつての仲間たちと「シングルマザーのつながるネット まえむきIPPO」としてネットワークづくりを開始。また、居場所のない若い女の子のシェルターを運営する「NPO法人子どもセンターぬっく」の理事も務める。仕事は、大阪府下の某市で女性相談員および男女共同参画担当としてDV相談や人権講座の企画運営に携わっている。フリーランスのライターとして「はらっぱ」や「ふぇみん新聞」などに気が向けば記事を書くことも。また、大阪府子ども家庭サポーター(虐待防止アドバイザー)、堺市子育てアドバイザーとして、子育てがしんどいお母さんのサポートをボランティアで行っている。

 

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